新規のお客様のカウンセリングで、うまくいく日といかない日があります。
同じことを話しているのに、ある日は「じゃあお願いします」と言ってもらえて、別の日は「今日はカットだけで」と閉じられてしまう。話し方の問題だと思われがちですが、多くの場合、違っているのは順番です。
この記事では、カウンセリングを「悩み → 現状 → 提案」という順番で組み立てる理由と、その順番を崩したときに何が起きるのかを整理します。
トーク集ではありません。順番の設計図の話です。
1. カウンセリングは3つのブロックでできている
10も20も手順を覚える必要はありません。大きく3つに分けて考えます。
| ブロック | やること | 目的 |
|---|---|---|
| ① つかみ | 挨拶、カルテのお礼 | 安心してもらう。ここで警戒されると、後の質問に本音が返ってこない |
| ② 深掘り ★最重要 | 悩みを聞く、施術履歴を聞く | 判断材料を集める。ここで出た言葉が、提案の材料のすべてになる |
| ③ 提案 | 現状を一緒に見る、施術を提案する、確認する | 道筋を示す。②で聞いたことと結びつけて話す |
この記事で扱うのは、ほぼ②と③の順番です。
②が最重要なのは、シンプルな理由からです。提案の材料は、②でしか手に入らないからです。ここが薄いまま③に進むと、お客様の話ではなく、こちらの引き出しの話になります。
2. 順番を崩すと何が起きるか
現場でよく起きる崩れ方が3つあります。どれも悪気なく起きるもので、むしろ丁寧にやろうとするほど起きやすいのが厄介なところです。
失敗パターン① 希望から先に聞く → 注文受けで終わる
「今日はどうされますか?」
いちばん自然な入り方に見えますが、この質問には落とし穴があります。希望は答えやすいので、お客様はすぐ答えられてしまうのです。
「カットでお願いします」
そう返ってきた時点で、会話は事実上閉じます。こちらは注文を受けた側になり、あとは実行するだけになる。
でもその方は、本当は「広がるのが嫌でショートにしようとしていた」のかもしれません。だとすれば、広がりを抑える方法はカット以外にもあります。悩みを先に聞いていれば出せた選択肢が、希望を先に聞いたことで消えてしまう。
希望から入ると、こちらの提案の幅が最初に閉じます。
失敗パターン② 現状説明を、悩みを聞く前にやる → 押し売りに感じられる
鏡の前で髪を見ながら、気づいたことを先に伝える。これも丁寧さから来る行動です。
しかし、悩みを聞く前に言うと、それは指摘になります。
- 悩みを聞く前:「ここ、傷んでますね」→ ダメ出しに聞こえる
- 悩みを聞いた後:「さっき仰っていた広がりですが、原因はこの部分のうねりです」→ 答えに聞こえる
同じ情報でも、順番が変わるだけで意味が変わります。
先に説明されると、お客様は「何か売られるのかな」と身構えます。後に説明されると、「自分の話を聞いた上で言ってくれている」になる。内容は1文字も変わっていません。
失敗パターン③ 提案が先 → 価格の話に落ちる
早い段階で施術名を出してしまうケースです。
施術名が先に出ると、お客様の判断軸は「それはいくらか」になります。悩みと結びついていないメニューは、価格でしか比較のしようがないからです。
逆に、「この広がりを抑えるにはこういう方法があります」と悩みから入ると、判断軸は「それで解決するのか」に変わります。
価格で選ばれるか、価値で選ばれるかは、提案を出す位置で決まります。
3つをまとめると
| 崩れ方 | 起きること | 直し方 |
|---|---|---|
| 希望を先に聞く | 注文受けで終わり、提案の幅が消える | 悩みを先に聞く |
| 現状説明を先にやる | 指摘・押し売りに聞こえる | 悩みを聞いた後に説明する |
| 提案を先に出す | 価格でしか比較されない | 悩みと結びつけてから出す |
3つとも、直し方は同じです。悩みを先に聞く。それだけです。

3. 「深掘り」の中にも順番がある
②の深掘りは、さらに3段階に分かれます。ここも順番があります。
悩み → 困る場面 → 理想
悩み:何が気になっているか
「髪のことで今、いちばん気になっているのはどこですか?」
「いちばん」を入れるのがポイントです。入れないと複数返ってきて、優先順位がわからなくなります。
困る場面:それで、いつ困るか
ここがいちばん抜けやすい質問です。そして、いちばん情報量が多い質問でもあります。
「広がる」という同じ言葉でも、
- 朝、セットしても決まらないのか
- 夕方、外から戻ると広がっているのか
では、原因も対処もまったく違います。前者は乾かし方の話かもしれないし、後者は湿気や汗の話かもしれない。
悩みだけを聞いて提案に進むと、この分岐を飛ばすことになります。
理想:どうなったら嬉しいか
そして理想は、最後に聞きます。
理想を最初に聞くと、それは「注文」になります。悩みを聞いた後に聞くと、同じ答えが「ゴール」になる。ゴールなら、そこへ向かう道はこちらが設計できます。
順番の理由を1行でまとめると:悩みは判断材料、困る場面は分岐、理想はゴール。材料がないまま、ゴールだけ先に受け取ってはいけない、ということです。
4. やってはいけない7つ
順番以外に、崩れやすい箇所をまとめます。どれも丁寧にやろうとして起きる種類のものです。
| やってはいけないこと | なぜ | 代わりに | |
|---|---|---|---|
| 1 | 挨拶のあと、早口でそのまま本題に入る | 最初の数十秒で警戒されると、後の質問に本音が返ってこない | 挨拶だけで一呼吸おく |
| 2 | カルテに書いてある内容を、一から聞き直す | 「読んでいない人」だと伝わる。書いた労力が無駄になる | 書いてある内容に触れてから、詳しく聞く |
| 3 | 前の担当・前のお店を一緒になって悪く言う | その場は盛り上がるが、次は自分が同じ扱いを受けるとお客様は感じる | 事実として受け止め、「では今日改善しましょう」と前を向く |
| 4 | 悩みを大げさに繰り返して不安を煽る | 共感のつもりでも、不安を材料にした提案になってしまう | 共感は1回。繰り返さない |
| 5 | 希望から先に聞く | 注文受けで終わる(2章①) | 悩みから聞く |
| 6 | 現状説明を、悩みを聞く前にやる | 指摘・押し売りに聞こえる(2章②) | 悩みを聞いた後に説明する |
| 7 | 内容・料金・時間の確認を省いて施術に入る | 後のトラブルはほぼここから起きる | 3点を声に出して確認し、同意をもらってから始める |
7番だけは、順番の話ではなく事故防止の話です。巻いているときほど飛ばしたくなりますが、飛ばしていい場面はありません。
5. 時間がないときに削るもの
現場では、押している日があります。カウンセリングに10分取れない日もある。
そのときに削るのは、長さであって順番ではありません。
| 削っていいもの | 削ってはいけないもの |
|---|---|
| 各質問の長さ | 悩み → 現状 → 提案の順番 |
| 雑談 | 施術履歴の確認 |
| 説明の詳しさ | 内容・料金・時間の確認 |
順番を崩して短縮すると、短くなった上に結果も落ちます。一方、順番を保ったまま各所を短くすれば、精度はそれほど落ちません。
急いでいる日ほど、順番だけは守る。これが結論です。
よくある質問
Q. 常連のお客様にも、同じ順番が必要ですか?
毎回フルでやる必要はありません。ただし「いちばん気になっているのはどこか」だけは毎回聞く価値があります。悩みは季節や生活で変わるためです。前回と同じ前提で進めると、変化を取りこぼすことがあります。
Q. 施術履歴が曖昧なお客様には、どうしますか?
無理に確定させず、安全側で判断します。「たぶんブリーチはしていないと思う」という記憶に賭けるより、確認できない前提で薬剤や施術を選ぶほうが、結果的にお客様のためになります。曖昧なまま進めて起きたトラブルは、取り返しがつきません。
Q. 提案が高額になりそうなときは?
分けて提案する方法があります。「今日はここまで、次回これ」という進め方を示せると、予算の都合で全部を諦める必要がなくなります。大事なのは、お客様の反応を見ながら調整することです。反応を見ずに盛るのは、提案ではなく押し付けになります。
Q. 順番を意識すると、会話が不自然になりませんか?
最初はなります。ただ不自然に感じるのは、順番を覚えようとしているうちだけです。3つのブロックと「悩みが先」だけ頭に入れておけば、細かい質問は自然に出てきます。台本を暗記するより、順番だけを覚えるほうが早く身につきます。
おわりに
カウンセリングの技術というと、話し方や言い回しの話になりがちです。
でも実際に結果を分けているのは、どの情報を、どの順番で受け取るかという設計のほうだと感じています。
- 悩みを先に聞く
- 現状は、悩みを聞いた後に説明する
- 提案は、悩みと結びつけてから出す
この3つだけで、同じことを話していても伝わり方が変わります。明日の1人目から試せる内容なので、順番だけ意識してみてください。



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