こんにちは。髪質改善特化の美容師、星野聖也です。
「髪質改善縮毛矯正の教科書」第2回です。第1回では、還元剤・アルカリ剤・酸化剤という薬剤の基礎を整理しました。今回の内容は、その知識が前提になります。まだの方は先にこちらをどうぞ。
→ 第1回:髪質改善縮毛矯正の薬剤の基礎|還元剤・酸化剤の化学を美容師向けに解説
第2回で扱うのは、フルメニュー12工程のうち前半の6工程。
① プレシャンプー → ② 前処理 → ③ 1剤塗布 → ④ 流し → ⑤ 中間処理 → ⑥ ドライ
つまり、髪を「アイロンに渡すまで」のすべてです。
先に結論をまとめます。
- 前半6工程の目的はただひとつ、「必要な分だけ還元された、均一な状態の髪」をアイロンに渡すこと
- 仕上がりの差は1剤の放置中ではなく、その前後——素地づくり(①②)と後始末(④⑤⑥)——でつく
- 各工程で「手が何をしているか」と「髪の中で何が起きているか」は必ずセットで理解する。手順の丸暗記は応用が利かない
この記事では6工程それぞれを、「やること(手技)」と「髪の中で起きていること」の2段構えで解説していきます。
※本記事は一般に確立された内容を軸にしつつ、筆者のサロンワークでの手順・判断基準を含みます。手技の細部はサロン・使用薬剤の設計によって変わるため、「考え方の骨格」として読んでください。
1. プレシャンプー——薬剤が均一に効く「素地」をつくる
最初の工程はプレシャンプー(予洗い)です。地味な工程ですが、ここを雑にすると、後のすべての工程が「ムラのある土台」の上で進むことになります。
やること
- スタイリング剤・皮脂・ほこりを落とす。洗浄が目的なので、トリートメント成分などが髪に残るタイプのシャンプーは避ける
- 頭皮は強くこすらない。指の腹でやさしく、髪を中心に洗うイメージ
- 流したあとはタオルドライで髪の濡れ具合を全体で均一に整える。目安は「水が滴らない程度」。びしょ濡れの部分と乾き気味の部分が混在した状態にしない
髪の中で起きていること
1剤は、髪の表面に付着物があるとそこだけ浸透が遅れます。オイルやワックスの膜が残った部分は薬が入りにくく、素の部分は普通に入る——この差が、そのまま還元ムラ=軟化ムラになります。プレシャンプーは「汚れを落とす作業」というより、薬剤の浸透条件を全頭でそろえる作業と捉えるのが正確です。
頭皮を強くこすらない理由も明確で、この後に1剤(アルカリや還元剤を含む薬剤)を根元近くまで塗布するからです。ゴシゴシ洗って頭皮のバリアを削った状態で薬剤に触れると、しみる・赤くなるなどの頭皮トラブルのリスクが上がります。頭皮の皮脂は、1剤前に限っては「守ってくれる膜」でもある、という視点を持っておくと良いです。
また、水素結合は水で切れる、というのは第1回でやったとおり。濡れ具合がバラバラだと、髪の状態(水を含んだ膨らみ方)も部位ごとにバラつきます。濡れ具合を均一に=スタートラインをそろえる。プレシャンプーのゴールはここです。
2. 前処理——「効かせたい所に効かせ、守りたい所を守る」
次に前処理。1剤の前に、保護・補修剤を髪の状態に合わせて塗り分ける工程です。
やること
- 毛髪診断で把握したダメージマップに沿って、ダメージの強い部分(毛先・過去の施術履歴部分など)に保護・補修剤を塗布する
- 健康な部分(新生部など)には基本的につけない、またはごく軽くにとどめる
- 使う処理剤の種類・塗り分けの基準は毛髪状態によって変える。筆者はPPT系(たんぱく質を補う)とCMC系(脂質・細胞膜複合体を補う)を使うことが多い
髪の中で起きていること
前処理の本質は、「1本の髪の中にあるダメージ差を、薬剤が効く前にできるだけ埋めておく」ことです。
同じ1剤を全体に塗っても、髪は部位ごとに条件が違います。ダメージ部分はキューティクルが傷んで内部がスカスカなので、薬が速く・深く入ります。健康な部分はガードが堅いので、薬はゆっくり入ります。つまり何もしなければ、いちばん弱い部分にいちばん強く薬が効くという、最悪の配分になるわけです。
前処理剤は、ダメージ部分に先に入り込んで内部を埋めたり表面を保護したりすることで、この浸透スピードの差をならします。第1回で「膨潤はやりすぎ厳禁」と書きましたが、ダメージ毛は膨潤に対する余力が少なく、放っておくと真っ先に過膨潤へ突っ込みます。前処理はその予防線です。
一言でいえば、前処理とは「効かせたい所(クセの強い健康な部分)にはちゃんと効かせ、守りたい所(ダメージ部分)は守る」ための下ごしらえ。薬剤選定が「全体の設計」なら、前処理は「部分ごとの微調整」を担当しています。

3. 1剤塗布——還元のコントロールは「塗る順番」で半分決まる
いよいよ1剤です。第1回で解説した還元剤・アルカリ剤の出番。ここでの主導権は、実は「どの薬を選んだか」だけでなく、「どの順番で、どこに、どう塗るか」にあります。
やること
- 薬の効きが遅い(効かせたい時間が長い)部分から塗り始め、効きが速い部分を後にすることで、全頭の還元の進み具合をそろえる。基本の考え方は「クセが強く健康な部分が先、ダメージが強い部分が後」
- ブロッキングはセンターパートとイヤーツーイヤーで十字に4分割。筆者はネープから塗り始め、サイド→前髪(顔まわり)へと進める。顔まわりは毛が細く薬が効きやすい部位なので最後に回す——「効かせたい時間が長い所から先」の考え方をそのまま塗布順に落とした形です
- 根元は5〜10mmほど空けて塗る(地肌にはつけない)
- 塗布後は放置し、頃合いを見て還元チェックで還元の進み具合を確認する
髪の中で起きていること
放置中の髪の中では、第1回の第3章で整理した3つの現象——膨潤・軟化・還元——が同時進行しています。アルカリと水分で髪がふくらみ(膨潤)、還元剤がS-S結合を切っていき(還元)、切れた分だけ髪は形を変えやすくなる(軟化)。1剤塗布とは、この3つの進行を部位ごとに制御する工程です。
塗布順に時間差をつけるのはそのためです。塗った瞬間から反応は始まるので、塗る順番=反応時間の配分。先に塗った部分は長く、後に塗った部分は短く薬が効きます。ダメージ部分は薬が速く入るので短時間で十分、健康で強いクセの部分は時間が必要——だから前者を後、後者を先に塗る。これで「流すタイミングを全頭でそろえても、還元の進み具合はそろっている」状態を目指せます。
根元を空ける理由は2つあります。ひとつは頭皮保護。もうひとつは体温です。根元付近は頭皮の熱で薬剤の反応が進みやすく、同じ薬・同じ時間でも他の部分より効きが速くなります。さらに根元の新生部はまだダメージのない元気な髪ですが、地肌ギリギリまで塗ると、後の工程(アイロンの熱や薬剤のたまり)で根元折れのリスクも出てきます。空けた分は体温と薬剤の自然な広がりでカバーされる、という設計です。
還元チェック——「S-S結合がどれだけ切れたか」を読む
放置中の最重要ポイントが還元チェックです。一般には「軟化チェック」と呼ばれることも多いですが、見ているのは還元の進み具合——「S-S結合がどのくらい切れて、アイロンで形を変えられる状態になったか」——なので、本稿では還元チェックと呼びます。
筆者のやり方はコーミングです。毛束にコームを通し、クセがのびているかどうかを見ます。見る部位はネープ・サイド・顔まわりあたりを基本に、カウンセリングの時点でクセが強かった箇所も必ずチェックします。塗布順で時間差をつけている以上、1か所の判断を全頭に当てはめるのは危険だからです。
ここで大事なのは、還元(軟化)は「進めるほど良い」ものではないということです。
- 足りない(アンダー):S-S結合の切断が不十分。アイロンで一時的にのびても定着せず、クセが残る・後戻りする
- 行きすぎ(過還元):S-S結合を切りすぎ、2剤で酸化しても元の強度に戻りきらない。過軟化・ビビリ毛の入り口
そして過還元は流してからでは取り返せません。アンダーはまだリカバリーの余地がありますが、切りすぎた結合は戻らない。だから迷ったら弱め・早めに判断し、還元チェックは「1回見て終わり」ではなく、放置中に複数回、部位を変えて見るのが基本です。

4. 流し(1剤)——反応を「止める」工程。ただ流すのではない
還元が適正に達したら、1剤を流します。シンプルに見えて、意味を理解しているかどうかで差が出る工程です。
やること
- 1剤をしっかり、丁寧に流しきる。「ぬめりが取れたら終わり」ではなく、長めに5分ほどかけて根元・襟足・耳裏まで
- 筆者は乳化はしません。お湯でしっかり流しきることを優先します
- 髪をこすり合わせず、お湯を通すように流す(軟化した髪は摩擦にきわめて弱い)
- お湯の温度は熱すぎない設定で
髪の中で起きていること
1剤を流すことの本質は、還元反応を止めることです。還元剤が髪に残っている限り、S-S結合の切断はゆるやかに続きます。つまり流し残し=薬が効き続けている状態。還元チェックで「ちょうどいい」と判断しても、流しが甘ければその後も還元が進み、結果として過還元に踏み込みます。流しを「長めに5分」と時間をかけるのはこのためです。
流し残った薬剤やアルカリは、その場のダメージだけでなく、施術後も髪に残って継続的なダメージ源になります。数日〜数週間かけてじわじわ髪を傷める「時限式のダメージ」です。仕上がった直後はきれいなのに持ちが悪い——その原因のひとつが、各工程での流し残しです。
もうひとつ忘れてはいけないのが、この時点の髪は施術中でいちばん無防備だということ。S-S結合は切れたまま、髪は膨潤してキューティクルも開いています。強いシャワー圧でこすったり、髪同士を絡ませたりすれば、それだけで表面は削れます。「反応を止める」「残留させない」「摩擦を与えない」——流しはこの3つを同時にこなす工程です。
5. 中間処理——仕上がりとダメージを分ける「見えない分岐点」
1剤を流したあと、アイロン(第3回で解説)に入る前に行うのが中間処理です。お客様からはほぼ見えない工程ですが、ここの丁寧さが仕上がりの質感と数か月後のダメージを分ける、と筆者は考えています。
やること
- 中間水洗を丁寧に行ったうえで、目的に応じた処理剤を塗布する
- 処理の柱は大きく3つ:pHコントロール(アルカリに傾いた髪を戻す)、キレート(金属イオンなどの影響を抑える)、補修(流出した内部成分を補う)
- 筆者がメインに使うのは脂質(CMC)を補うタイプの処理剤。1剤の工程で流出しやすい脂質を、アイロン前に補っておく狙いです
- 当店では処理後に流すタイプを使用。処理剤を入れてから軽く流し、ドライへ進みます。アウトバストリートメント型の処理剤を使う場合は、流さずそのままドライへ
髪の中で起きていること
1剤を流し終えた髪は、こんな状態です。
- pHはアルカリ側に傾いたまま(流しだけでは中性域まで戻りきらない)
- 膨潤したままで、内部の成分が流出しやすい
- S-S結合は切れたままで、強度が落ちている
このままアイロンの熱を入れるのは、傷んで開ききった髪に高温をぶつけるということです。中間処理は、アイロンに渡す前に髪のコンディションを立て直す工程だと言えます。
pHコントロールは、アルカリに傾いた髪を弱酸性側へ引き戻す処理です。第1回で触れたとおり、髪はアルカリで膨潤し、等電点付近(弱酸性域)で引き締まります。pHを戻す=膨潤を鎮めて、開いた髪を落ち着かせること。膨潤したままアイロンの熱を受けるのと、引き締まってから受けるのとでは、髪への負担がまるで違います。
キレートは、水道水や過去の施術で髪に蓄積した金属イオンの影響を抑える処理です。金属イオンが残っていると、この後の熱や2剤の反応に余計な影響を与えることがあるため、先に無力化しておきます。
補修は、還元・膨潤の過程で流出した内部成分を補っておく処理。アイロンの熱から髪を守るクッションにもなります。
第1回で「髪質改善縮毛矯正の思想は、膨潤を抑えて必要な分だけ還元し、丁寧に再結合すること」と書きました。中間処理はまさにこの「丁寧に」の中身です。還元を止め、pHを戻し、余計な要素を排除し、補修してからアイロンに渡す。ここを省略しても、その日の仕上がりは意外と成立します。差が出るのは数週間後、数か月後の髪です。
6. ドライ——「完全ドライ」でアイロンに渡す
前半戦の最後、アイロン前のドライです。「ただ乾かすだけ」に見えて、実はアイロンの成功率をこの工程が握っています。
やること
- 完全に乾かしきる(完全ドライ)。筆者は水分を残さず、しっかり乾いた状態でアイロンに渡します
- テンションをかけすぎず、髪の面を整えながら乾かす。この時点で毛流れが暴れていると、アイロンで直す作業が増える=熱を余計に入れることになる
- 全頭で乾き具合をそろえる。「ここだけ湿っている」という部分を残さない
髪の中で起きていること
なぜ乾かし具合がそこまで重要なのか。アイロンの熱の伝わり方は、髪の水分量で決まるからです。
水分が残った髪にアイロンを入れると、まず熱が水分の蒸発に食われて髪に届かず、プレスしても形が入らない=のび不良につながります。さらに高温のアイロンで多量の水分を一気に蒸発させると、蒸気が髪の内部から表面を押し破る形のダメージ(いわゆる水蒸気爆発)も起こり得ます。濡れ残りは「のびない」と「壊れる」の両方に直結する、前半工程で最後に残る大きなリスクです。
一方で「水分を少し残して熱の当たりをやわらげる」という考え方もあり、実際にそうしているサロンもあります。ただしこの方法は、残す水分量の見極めが人の感覚頼みになるのが弱点です。「適度な水分」の基準は言葉で共有しにくく、担当者によってブレます。
筆者が完全ドライを選ぶ理由はここにあります。ドライをアシスタントに任せることもあるため、「完全に乾かしきる」という誰がやっても同じ状態になる基準で統一したほうが、ミスがなくなるからです。水分ゼロという明確なゴールなら、スタッフ間で仕上がりがブレません。再現性こそ、サロンワークの品質を支える土台です。
「完全ドライだと熱がダイレクトに入りすぎるのでは?」という疑問はもっともです。乾いた髪に過度な熱を入れれば、たんぱく質の変性が進み、硬化・ビビリの原因になります。ただしこのリスクは、アイロン操作の側——温度設定・プレスの強さ・当てる回数——でコントロールするのが筆者の設計です。水分という不安定な変数で熱をやわらげるのではなく、髪の状態を一定にそろえたうえで、熱の入れ方を技術で管理する。この後半戦の熱コントロールは、第3回で詳しく解説します。
つまりドライのゴールは、「乾き具合が全頭で均一な、完全に乾いた髪」に整えること。ここでも一貫して「均一」がキーワードです。プレシャンプーで濡れ具合をそろえ、前処理と塗布順で還元をそろえ、ドライで乾き具合をそろえる——前半6工程はずっと「そろえる」ことをやっています。
まとめ——前半6工程は「アイロンへのパス」をそろえる作業
最後に、6工程を一枚で振り返ります。
| 工程 | やること(要点) | 髪の中で起きていること/狙い |
|---|---|---|
| ① プレシャンプー | 付着物の除去・頭皮はこすらない・濡れ具合を均一に | 薬剤の浸透条件を全頭でそろえる。頭皮の保護膜は残す |
| ② 前処理 | ダメージ部分へ保護・補修剤を塗り分け | 浸透スピードの差をならし、過膨潤を予防する |
| ③ 1剤塗布 | 十字ブロッキング・ネープから塗布・根元は5〜10mm空ける・還元チェック | 膨潤・軟化・還元を部位ごとに制御。過還元は戻れない |
| ④ 流し | 乳化せず長めに5分・摩擦を与えない | 還元反応を止める。流し残し=時限式ダメージ |
| ⑤ 中間処理 | 脂質(CMC)補給がメイン・処理後に流す(アウトバス型は流さない) | 膨潤を鎮め、髪を立て直してからアイロンへ渡す |
| ⑥ ドライ | 完全に乾かしきる・面を整える | 誰がやっても同じ状態=再現性。濡れ残り(のび不良・水蒸気爆発)を排除 |
こうして並べると、前半6工程がすべて「必要な分だけ還元された、均一な状態の髪をアイロンに渡す」ためにあることが見えてくると思います。アイロン技術でリカバリーできる範囲は、実はそれほど広くありません。前半工程の丁寧さは、縮毛矯正のクオリティにかなりの部分で関わってきます。前半戦を丁寧に積んだ髪は、アイロンが驚くほど素直に決まります。
続き:第3回(完結編)を公開しました
- 第3回:髪質改善縮毛矯正の後半工程(アイロン〜2剤〜後処理〜仕上げ)【完結】 — 熱で形をつくり、2剤でS-S結合をつなぎ直して固定する後半戦。スライスと根元の角度、2剤の濃度と置き方、残留過酸化水素対策まで解説しています。
シリーズの続き・他の専門コラムはこちらから。
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